第6章

頭の怪我から三日後、病院からようやく退院の許可が下りた。絶対安静という、厳しい条件付きで。だが、黒崎永人には別の考えがあった。

「今夜、来てもらう」家に向かう車の中で、彼が冷たく告げた。「伊佐美のデビュー公演だ。俺の妻として、芸術を支援する姿を見せる必要がある」

包帯の下で、頭がまだズキズキと痛む。「永人、私、病院を出たばかりなのに……」

「劇場の椅子に座っているだけだ。問題ないだろう」バックミラー越しに彼の視線が私を捉える。事故の後から現れた、あの新しい疑念に満ちた目で。

病院でのあの中途半端な会話が、まるで装填された銃のように私たちの間に横たわっていた。鎮痛剤のせいで、...

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